風ザナ1.5 第4話 ギウダ
クレーネの欠片は弱く、だが確実に光を放っていた・・・。 王都の復興にあたっていたパヴェルは 復興が一段落したので報奨金を出しクレーネの回収を始めることにした。 クレーネの存在が人々に知られる危険はあったが 幸いギウダというクレーネジュエルに似た鉱石がある。 ギウダは魔法具に使われる物であり、ギウダも光を放つ鉱石なのである。 ギウダと一緒に回収すればそのリスクも回避できると思った。 パヴェル: 「ギウダの相場は今どうなっているかい?」 ヌースの部下: 「暴落してますね。」 パヴェル: 「予想通りだな。」 ギウダはいわば魔法の力の増幅器である。 クレーネの放つ魔法の光のおかげで ギウダも魔鉱石としての力を発揮していた。 クレーネジュエルが無くなった今、ギウダの需要は無いに等しい。 パヴェル: 「よし、ここまで低くなれば クレーネとギウダを同時に回収しても資金は持つな。」 リュコス: 「名付けて、ギウダで小遣い稼ぎキャンペーン! 裏ではクレーネ回収大作戦〜!」 パヴェル: 「・・・まあ、そういう事だけど。」 店をかまえるため資金が欲しい人や 単純に小遣い稼ぎをしたい人のためにギウダを集めさせ どさくさに紛れてクレーネを回収しようという事なのだ。 この策は思ったよりうまくいった。 ひと月が過ぎ倉庫の1つがギウダで埋まったが クレーネの欠片も半分以上集まった。 パヴェル: 「上出来だな。モンスターの方はアリオス様に お任せしてあるからいいとして、あとはヌースか・・・。」 リュコス: 「おっそいよね〜。いったい何やってんだか。」 確かにギムノスに行って帰ってくるにしてはいくらなんでも遅すぎる。 パヴェル: 「まさか私のように誰かに襲われて・・・。」 リュコス: 「それはないんじゃない? 狙われる理由はありすぎるけど、 あいつは襲われたって簡単にくたばるタマかよ。」 ヌースはいざとなればいくらでも自分の身を守れる。 剣の腕はそこらの騎士より遥かに上だし、フラスコで相手を凍らせることもできる。 ヌースに仕える部下たちも皆優秀な兵士ばかりだ。 パヴェル: 「だといいのだけど・・・。」 ヌース: 「・・・ただいま、と言うべきなのだろうか。」 王都復興の最高責任者がようやく帰ってきた。 パヴェル: 「ヌース!」 リュコス: 「やっと帰ってきたか。」 ヌース: 「というかリュコス。 君はいつからパン屋になったんだ?」 リュコスはちょうどパン屋に寄った後だったので 手に一杯のパンを抱えていた。 リュコス: 「ほっとけ。孤児院が完成したってのに その後もパヴェルは持ってけって言うんだもん。」 パヴェル: 「私は君がサボらない仕事を与えているに過ぎない。 ・・・ヌース、思ったよりも遅かったね。」 ヌース: 「すまんな。あちこちに行っていたものでね。 それより、ギウダはどれくらい集まった?」 パヴェル: 「ギウダ? クレーネの欠片じゃなくて?」 ヌース: 「ああ、そっちも含めてどうだ?」 パヴェルはクレーネの欠片を半分ほど、ギウダを倉庫一杯に集めた事を話した。 ヌース: 「それだけあれば充分だな。」 リュコス: 「なになに? クレーネの対処法がわかったの?」 ヌース: 「ギウダを使ってクレーネの力を封じ込める。」 パヴェル: 「そんな事が可能なのか?」 ヌース: 「エナス殿によると可能らしい、という話だ。」 リュコス: 「らしいって・・・。相変わらず、いい加減な賢者だなあ・・・。」 ヌース: 「ギウダは魔法の力を増幅する物だが 一部の装飾品にも使われているように それ自体にもわずかだが魔力がある。 クレーネの力が世界に及んでいたときは そのベクトルに沿って魔法具の回路を組めば良かった。 だから今度はその力に逆らうようにギウダの回路を組み、 クレーネを覆ってしまえというのがエナス殿の考えだ。」 リュコス: 「そんなにうまくいくのかね。」 ヌース: 「私もそうは思わない。だが他に方法が無い。 一応何人か技術者を集めてきたが。」 パヴェル: 「クレーネのことは話したのか?」 ヌース: 「事情を説明したら分かってくれたよ。 彼らには前金も渡し多額の報酬も約束した。 この一件が片付いたら装飾品関係の仕事も与える。」 魔法具の職人を始めギウダを扱っていた人たちは皆生きる糧を失っていた。 ギウダを使った仕事を紹介された彼らは喜んで引き受けてくれたらしい。 パヴェル: 「分かった。 じゃあその人たちにギウダをまわせばいいんだね。 集めたはいいけど使い道に困っていたんだ。」 ヌースは技術者たちの挨拶も兼ねてパヴェルを研究室に案内した。 リュコスも興味本位で付いてきた。 パヴェル: 「失礼いたします。 王都復興の副責任者パヴェルと・・・。」 リュコス: 「ヒルダちゃん!!」 パヴェル: 「は?」 言い終わる前にリュコスが声を上げた。 視線の先に占い師のような姿の女性がいた。 ヒルダ: 「あら・・・。」 リュコス: 「それにクリフ! ネッドのおっさんまで!」 クリフ: 「リュコスさん!」 ネッド: 「あんた確か騎士様と一緒にいたな。」 片方はリュコスと同じぐらいの年で 作業着にゴーグルという工具が良く似合う格好をしている。 もう一人は初老の男で見るからに職人を思わせるが 温和そうな表情をしている。 リュコスは三人とも知っていた。 ヌース: 「なんだ、知り合いだったのか。 改めて。こちらはネッド氏。 呪話器から魔法の絨毯までこなす魔法具の職人だ。 こちらはヒルダ嬢。装飾品を創られている。 手先が器用で微細な回路を組める。 最後にクリフ君。 発明家で魔法具から大砲までなんでも手がけている。」 ヌースが簡単な紹介を終えるとリュコスはヒルダに声を掛けた。 手の振りなど動きに無駄があるように見える。 リュコス: 「いんやー、奇遇だね〜。」 ヒルダ: 「騎士様は一緒ではないんですの?」 リュコス: 「あんな石頭たちはほっといていいって。 やっぱり、君とは巡り逢う、そう、これが運命・・・。」 パヴェル: 「熱でもあるのか?」 ヌース: 「死ぬまで治らぬ病気だから放って置いて良い。」 リュコス: 「・・・新生イシュタリアの幹部って どうしてこう、頭が固い連中ばっかりなのかね・・・。」 ぼやくリュコスを尻目にヌースは技術者達に依頼内容を確認した。 ヌース: 「それではこれから作ってもらいたい封印装置なのだが 必要な道具や現時点でわかっている問題はあるか?」 ネッド: 「工具に関しては用意してもらった物で充分ですね。」 ヒルダ: 「私はアクセサリー専門だから 魔法具の知識はあまりありませんよ。」 ヌース: 「あなたはできる範囲で結構ですから。」 ネッド: 「問題は一切の試験ができないことですかね。」 クリフ: 「やっぱり、問題は装置の基本構造ですよね。 理論上は可能でも作ったことはありませんから。」 パヴェル: 「難しそうですね。」 クリフ: 「方法としては力を鏡のように跳ね返す反射法と ブースターの一次側と二次側を逆にする 減波法などが考えられますけど。」 ヌース: 「何でもいい。いろいろ作ってくれ。ギウダならいくらでもある。」 挨拶を済ませ研究室を後にしたヌースたちは執務室に戻り、 互いに持つ情報を交換した。 ヌース: 「・・・そうか、それは災難だったな。」 パヴェル: 「他人事のように言うんだね。 まったく、誰のせいで狙われたと思ってるんだか。」 パヴェルが襲われたのに感情の変化は然程見られない。 冷たいのかリュコスや部下をそれだけ信頼しているのか・・・。 ヌース: 「悪かった。 私は何度も襲われているから慣れてしまっていてね。 連中の考えることは芸が無さ過ぎる。 おぬしを襲うことも予想どおりだったからな。」 リュコス: 「で? 貴族のバカどもは次に何してくんの?」 リュコスの問いにヌースは眉をひそめた。 ヌース: 「奴らめ、とうとう最終手段に訴えようとしている。 マクリア国に取り入って軍を差し向けようとしている。」 マクリア国は王都から西部に位置する王国で 現在はイシュタリア一の軍事力を誇る国である。 パヴェル: 「マクリアが!? なぜ・・・。」 ヌース: 「今や専制君主制を敷いているのはマクリアだけだからな。 王都の影響で王にこのままだとご自分の立場も危うくなりますぞ、 とかなんとか言ったんだろう。」 リュコス: 「あり? ヌースがアリオスを王にしようとしているのは?」 ヌース: 「私がやりたいのは立憲君主制だ。 あんな欠陥だらけの制度と一緒にするな。」 パヴェル: 「マクリア軍を相手にするのは流石にまずいと思うけど・・・。」 ヌース: 「あんな国に他国を侵略する力など無いさ。 無理に軍を派遣すれば自分の首を絞めるだけだ。」 パヴェル: 「まあ、君がそう言うなら大丈夫なんだろうけど。」 ヌース: 「戦争になったとしても一応策はある。気にしなくていい。」 数日後ヌースは一人 職人達に会い装置について話をしていた。 職人達の要望でギウダが収められていた倉庫を丸ごと使うことになった。 ネッド: 「すみませんな。 万全を期すためには装置を大きくする必要があるんで。」 ヌース: 「いや、むしろ大きくしてくれ。何人か中で自由に動けるぐらいに。」 訝しがる職人達にヌースはエナス賢者の言葉や自分の考えを伝えた。 クレーネの正体などを知った職人達は一様に複雑な表情を浮かべた。 ネッド: 「・・・そんなことがあったとは。 わかりました、倉庫の内壁に這わせるように装置を作りましょう。」 ヌース: 「すまんな、おぬし達の仕事を奪った上に さらに止めを刺させるような事を・・・。」 ヒルダ: 「いいえ、人々の幸せを考えるならこれでいいんですわ。」 クリフ: 「おれも構いませんよ。 好きな発明ができる上、お金がもらえるんですから。」 ヌース: 「・・・感謝する。」 そしてクレーネを封印する装置の建造が始まった。 −つづく− |